医療機器の開発相談を受けていると、「この製品は医療機器に該当しますか?」という質問をよくいただきます。
新しいアイデアを形にしようとするとき、まず最初に立ちはだかるのが“医療機器該当性の判断”です。
医療機器に当てはまるのか、それとも雑品扱いなのか、あるいはプログラム医療機器(SaMD)なのか──。
この判断を誤ると、必要な手続きが変わるだけでなく、開発スケジュールにも大きな影響が出ます。
この記事では、アイデア段階の企業でも判断しやすいよう、医療機器該当性の考え方を分かりやすく整理しました。
なぜ該当性判断がそんなに重要なのか
医療機器に該当するかどうかで、必要となる規制対応は大きく変わります。
申請の有無だけでなく、手順書の整備、品質管理、安全管理、臨床評価など、企業が準備すべき内容そのものが異なります。
特に小規模ベンチャーの場合、最初の判断を誤ると、「後から必要と知って慌てて対策する」という事態に陥りやすく、結果として時間もコストもかかってしまいます。
そのため、アイデア段階の早い時期に方向性をつかむことが非常に重要です。
医療機器かどうかを判断するための3つの視点
医療機器該当性を考えるときに、最初に押さえておきたい視点が3つあります。
1. 製品の“目的”
最も重要なのは、「何のために使うのか」という目的です。
人体の診断・治療・予防に直接関わる場合、それは医療機器として扱われる可能性が高まります。
例えば、同じ“計測”でも、
・運動データの記録 → 医療機器の可能性は低い
・心機能や症状の把握 → 医療機器として扱われる可能性が高い
目的によって分類が大きく変わるため、ここを丁寧に言語化することが大切です。
2. 作用機序
製品がどのように“効果を発揮するか”という視点も重要です。
- 物理的に体へ作用する
- プログラムで診断結果を示す
- 治療に必要な情報を生成する
といった場合は、医療機器に該当する可能性があります。
反対に、生活改善のためのアドバイスレベルであれば、医療機器に該当しないケースもあります。
3. 使用環境・リスクの大きさ
どこで使うのか、どんな状況で使用するのかによって、医療機器かどうかが変わる場合があります。
たとえば、
- 医療機関での診断の補助として使用
- 患者が自宅で症状管理のために使用
などは、医療機器としての扱いが必要になる可能性が高まります。
使用環境によって求められる安全性の基準も変わるため、ここも重要な判断ポイントになります。
グレーなケースで考えるべきポイント
実際には、医療機器かどうか微妙なケースも少なくありません。
最近では、プログラムやアプリケーションの相談が増えており、「AI・デジタル関連の該当性」は特に判断が難しい領域です。
こうしたグレーなケースでは、“製品が使用者の判断や治療方針にどれくらい影響を与えるか”という観点で整理すると方向性が見えやすくなります。
判断に迷う場合は、第三者に客観的に見てもらうことも有効です。
該当性判断でよくある誤解
該当性判断の相談を受けていると、いくつかの誤解が見られます。
「データを記録するだけだから医療機器ではない」
→ 実は“どう使われるか”によっては医療機器に該当することもあります。
「診断名を示さなければ医療機器ではない」
→ 診断補助やリスク評価なども医療機器に分類される場合があります。
「海外では医療機器ではなかった」
→ 日本では別の判断になるケースが多々あります。
このように、目的・作用機序・使用環境の細かな違いが、分類を左右します。
判断を誤るとどうなるのか
該当性を誤って進めてしまうと、後から想像以上の負担が生じます。
必要な申請が抜けていたり、治験の必要性を見落としていたり、手順書や体制整備が追いつかなくなったりするケースがあります。
これは特に小規模企業にとっては大きなダメージになり、開発全体が数ヶ月〜1年以上遅れる原因になることも少なくありません。
判断に迷ったらどうすればいい?
該当性判断は、早い段階で専門家に確認したほうが確実です。
目的や仕様を簡単に整理しただけでも、方向性は明確になります。
重要なのは、「正しいルールに従って開発を進められているか」を早めに確認することです。
方向性さえ間違えなければ、その後の開発はスムーズに進みます。
まとめ:アイデア段階こそ、該当性判断が重要
医療機器該当性の判断は、開発の最初の分岐点です。
- どんな目的で使うのか
- どう作用するのか
- どんな環境で使用されるのか
この3つの視点を押さえて整理するだけで、方向性は大きくぶれなくなります。
迷いがある段階こそ、早めに判断しておくことで、開発のスピードを落とさずに前へ進めることができます。
