医療機器ベンチャーが開発を進めるうえで、必ず向き合うのが「三役体制の構築」です。
とはいえ、小規模の企業では薬事・品質・安全管理をそれぞれ専任で置く余裕がなく、ひとりが複数業務を兼任するケースも珍しくありません。
その結果、
・申請に必要な書類が揃わない
・治験準備が進まない
・PMDA相談で論点がまとまらない
といった “進めたくても前に進めない状況” に陥ってしまうことがあります。
この記事では、三役体制が整わない企業が 最初に取り組むべき現実的なステップ をわかりやすくご紹介します。
三役体制が求められる理由
三役(総括製造販売責任者/品質保証責任者/安全管理責任者)は、医療機器を市場に出すために必ず必要となる役割です。
申請書類を整えるだけでなく、「体制として欠けてはいけない」ものでもあります。
特にベンチャーの場合、開発スピードに対して体制が追いつかず、申請直前になって慌てて三役確保に動く……というケースも多く見られます。
しかし実際には、
三役が決まっていない状態では、必要な準備が正しく整わず、後工程で大きな手戻りが発生する可能性が高くなります。
だからこそ、開発の初期から“三役をどう確保するか”を意識しておくことが重要です。
三役不足が与える実務的リスク
三役が不在・曖昧な状態のまま進めると、次のようなリスクが発生します。
- QMS文書が整わず、適合性調査に進めない
- 申請書の記載内容がバラバラになる
- 臨床試験の計画と薬事の方針が噛み合わない
- 安全管理情報の収集体制が不十分になる
- PMDA相談で説明できない項目が出てしまう
どれも「後からまとめて対応する」ことが難しく、結果として開発期間が伸びてしまう原因となります。
小規模ベンチャーがまず整えるべき“最低限の体制”
とはいえ、小規模の企業でいきなり三役専任をそろえるのは現実的ではありません。
そこでまず取り組むべきは、
「三役を誰が担うか」を暫定でも決めること です。
- 常勤/兼任どちらでもOK
- 必要に応じて外部の専門家を組み合わせる
- 担当範囲を明確にする(ここが最重要)
暫定の体制でも「役割が誰にあるか」が明確になるだけで、一気に業務が進めやすくなります。
三役体制を整えるための3プロセス
1.現状整理
まず、社内で「何ができていて、何ができていないか」を棚卸しします。
この段階で足りないのは
- 知識なのか
- 経験なのか
- マンパワーなのか
を分けることが重要です。
2.必要要件の可視化
クラス分類、治験の要否、申請スケジュールをもとに「どのタイミングで、どの三役が何を担当すべきか」を明確にします。
3.社内・外部の役割分担
すべて自社で担おうとすると負担が大きすぎます。
外部をうまく活用しながら、必要なところだけ支援を受ける体制をつくることがポイントです。
ベンチャーが陥りやすい体制構築の落とし穴
- 三役を「形式だけ」置いてしまう
- 役割分担が曖昧なまま進んでしまう
- 文書作成と実務がリンクしていない
- “本当に必要な書類”が分からないまま作り始めてしまう
- 治験・薬事・品質が縦割りで動いてしまう
こうした状況は後から修正しづらく、手戻りが大きくなります。
現場で実践しやすい体制づくりのコツ
- まず暫定体制でも「役割」を明確にする
- 外部の専門家を早期に入れて“方向性の確認”をする
- 文書整備と実務の流れを紐付けて進める
- 三役の負担を減らすために標準化を進める
- スケジュールに余白を持たせておく
特に、開発初期での方向性確認は、後工程の負担を大幅に減らします。
まとめ:小さく始めても、体制は確実に整えられる
三役体制は「一度に完璧にそろえるもの」ではありません。
必要なのは、
- 現状を正しく把握し
- 今の体制でできる最善の一歩を決め
- 不足分を外部と連携しながら補うこと
小さな企業でも、実務に即した形で少しずつ体制を整えていくことで、スムーズに開発を進められることは多くあります。
「うちの規模では難しいのでは…」と思われている企業様こそ、実は改善の余地が大きいのです。
