日本市場に医療機器を展開したいという海外企業から、よく相談をいただきます。
そのなかで共通して言われるのが、
「日本の薬事制度は他国と比べて分かりづらい」
「資料の要求レベルが想像以上に細かい」
といった声です。
実際、日本の医療機器申請には独自の文化や考え方があり、アメリカやEUの基準と同じ感覚で進めると、途中で必ず壁にぶつかります。
この記事では、海外企業が日本で申請を進める際に“必ず押さえておきたいポイント”を、実務経験に基づいて分かりやすくまとめます。
日本の医療機器制度が海外企業を悩ませる理由
日本には、日本独自の薬事ステップや評価の考え方があります。
多くの海外企業が戸惑う背景には、主に3つの理由があります。
ひとつは、日本では 「前提の共有」や「背景の説明」 を求められる傾向が強いことです。
海外で使用実績がある製品でも、そのまま申請できるわけではありません。
もうひとつは、 資料の粒度が他国と異なる こと。
アメリカやヨーロッパで通用した資料でも、日本では説明不足と判断されることがあります。
そして最後に、 PMDA相談 を通じて細かい方向性を確認するプロセスが重視される点です。
ここを曖昧にしたまま進めると、後で大きな手戻りが発生します。
日本のクラス分類・治験要否は他国と異なる場合がある
海外企業が驚くポイントとして多いのが、「クラス分類が自国と一致しない」という点です。
日本のクラス分類は、日本の医療環境やリスク評価に基づいて決められています。
そのため、
- EUではクラスIIなのに、日本ではクラスIIIになる
- 海外では治験不要でも、日本では治験が必要になる
といったケースが少なくありません。
特にクラスⅣや治験が必要となる製品では、海外と同じ進め方が通用しないことがよくあります。
PMDA相談で求められる情報の“粒度の違い”
海外企業が最も苦戦するポイントが、この“粒度”の違いです。
日本では、
- 背景説明を丁寧にする
- 使用環境の詳細を示す
- リスクの洗い出しを細かく行う
といった文化が強く、海外資料をそのまま使うと「説明が足りない」と判断されることがあります。
さらに、PMDA相談では
「なぜこの治験設計にしたのか」
「なぜこの試験データが必要なのか」
といった“理由説明”が求められます。
海外の開発フローでは暗黙了解になっている部分でも、日本では明確に文章として示す必要があるのです。
日本での治験準備は、海外よりも丁寧な手順が求められる
海外企業が日本で治験を進める際、特に戸惑うのが 準備段階の丁寧さ です。
契約の進め方、手順書の整合性、治験責任医師の関わり方、データの収集方法など、日本では細部まで確認しながら進めることが求められます。
これは「厳しい」ということではなく、“安全性・有効性を確実に示すために必要な文化” として存在しているものです。
ただし、この違いを知らずに海外スタイルのまま進めてしまうと、現場で混乱が起きたり、本来必要な資料が抜け落ちてしまったりすることがあります。
翻訳だけでは足りない。「説明の意図」をそろえる必要がある
海外企業には、「英語の資料はあるから翻訳すれば良い」と考えるケースも多くあります。
しかし、翻訳しても日本の審査で伝わらないことは珍しくありません。
理由はシンプルで、“海外資料は海外の審査文化を前提に作られている”からです。
そのため、
- 日本が重視する視点を補足する
- 説明の順番を調整する
- 背景の情報を追加する
などの“ローカライズ”が必要になります。
これは翻訳の作業ではなく、日本の規制・文化に合わせた “読み替え” に近い作業です。
海外企業が成功しやすくなる進め方
実務経験から感じるのは、日本での申請を成功させる企業ほど、“日本現地の視点を早い段階で取り入れている” ことです。
完全に日本式に変える必要はありません。
ただし、
- 製品特性の説明
- 治験の必要性
- リスク評価
- 資料の構成
のような部分を、日本側の想定に合わせて調整することで、申請の進行が格段にスムーズになります。
また、PMDA相談の前に“日本語の視点で資料の方向性を確認する”だけでも、相談の質は大きく変わります。
まとめ:日本申請の最初の壁は「文化の違い」。知れば越えられる
日本の医療機器申請は、海外の企業にとって理解しにくい部分が多いのは事実です。
しかし、
- クラス分類の違い
- 治験要否の判断基準
- 資料の粒度
- PMDA相談の文化
- 翻訳ではなくローカライズが必要な点
などを早めに知っておけば、進行は格段に楽になります。
日本独自の文化や考え方は“壁”に見えることもありますが、正しく理解すれば、確実に越えられる壁です。
