医療機器ベンチャーの多くは、ほんの数名のチームからスタートします。
薬事担当が一人、品質担当が兼任、開発担当は別業務も抱えている──そんな体制は決して珍しくありません。
しかし現実には、限られた人数で「治験の準備」「申請書類の作成」「手順書整備」「安全管理」「QMS」といった幅広い業務を進めなければならず、追いつかないと感じる場面もあるはずです。
とはいえ、少人数だから開発が止まるわけではありません。
むしろ、機動力の高いチームだからこそできる進め方があります。
この記事では、小さなチームが実務を前に進めるための考え方とポイントを、現場での支援経験をもとにまとめました。
少人数体制が抱えやすい悩み
少人数のチームで医療機器開発を進めている企業からは、共通した悩みを伺います。
「日々の業務に追われて方針が決められない」
「他の担当者の動きが見えず、どこが遅れているか分からない」
「薬事・品質・安全管理がそれぞれ独立して動きがち」
「三役を兼任していて、自分でも何が抜けているか分からない」
人数が少ないと、一人ひとりの負担が大きくなるだけでなく、“誰も全体を俯瞰できない状態” が生まれやすくなります。
ここが、最初に整えたいポイントです。
まずは「全体像」を見える形にする
少人数チームが開発を進めるうえで、最初にやるべきことは、細かな作業ではなく “全体像を可視化すること” です。
どんな申請を目指しているのか、治験が必要かどうか、
どの時点で三役体制を整えるべきか、
QMSはどこまで必要か。
この全体像が曖昧なままでは、どれだけ頑張っても「その作業が何につながるのか」が分からず、迷いや抜け漏れが発生します。
大きな壁を乗り越えるためには、まず状況を俯瞰し、“ここから着手する” と明確に決めることが一番の近道です。
仕事を前に進めるための「優先順位の付け方」
少人数体制では、すべてを同時に進めるのは不可能です。
だからこそ、優先順位の付け方がとても重要になります。
ポイントは、「影響範囲の大きいものから着手する」 という考え方です。
例えば、治験が必要な場合は、治験設計やPMDA相談の方向性が固まるまで他の業務が思うように進まないことがあります。
逆に、設計管理や文書管理の体制が整わないうちは、手順書を作っても実務と噛み合わず、手戻りが発生してしまいます。
「何を先に決めれば、後の業務が進めやすくなるか」
この観点で優先順位を見直すだけで、作業効率は大きく変わります。
兼任が前提だからこそ、役割を“見える化”する
少人数チームでは、三役や薬事担当、品質担当を兼任していることがほとんどです。
その場合、役割を明確に言語化しておくことが非常に重要になります。
担当者が同じでも、
「今は薬事担当として判断しているのか」
「品質担当として決めるべきことなのか」
を整理しておくと、判断がブレずに作業が進みます。
この“区分の明確化”は、外部から助言を受ける場合にも効果的で、必要な支援範囲や不足している部分が分かりやすくなります。
外部の力をうまく使うことで、少人数でも前に進める
小規模企業の場合、「全部を自社だけでやる」必要はありません。
三役の一部、治験準備、PMDA相談の資料作成、安全管理業務など、負荷の大きい部分は外部支援を活用することで、内部のリソースを保つことができます。
特に、“方向性を固める段階”で外部の支援を受けると、その後の作業が一気にスムーズになります。
これはあくまで外部に丸投げするという意味ではなく、内部の判断と外部の実務支援を組み合わせることで、少人数でも確実に開発を前進させられるということです。
スケジュールが破綻する前に気付くために
少人数体制では、遅延のサインに気付きにくいことがあります。
例えば、
「資料作成が長期化している」
「契約や手順書の確認が後回しになっている」
「関係者とのやりとりが停滞している」
といった兆候は、スケジュール全体が遅れる前触れです。
こうした小さな“止まり始め”を早期に察知できれば、手戻りを最小限にして軌道修正することができます。
まとめ:少人数でも、前に進める方法は必ずある
少人数のチームで医療機器開発を進めるのは大変です。
しかし、
全体像を可視化し、
優先順位を明確にし、
兼任の役割を整理し、
必要に応じて外部の力を取り入れれば、
小さな体制でも開発は確実に進められます。
大切なのは、「できる範囲で、最も効果の高い一歩を選ぶ」こと。
その積み重ねが、三役体制の確立にも、申請準備にも、治験の成功にもつながっていきます。
