医療機器の開発において、
・QMS手順書
・安全管理手順書
・臨床試験関連手順書
などの文書整備は欠かせない要素です。
しかし、特に小規模の企業では、「どれから書き始めればいいのか分からない」「例文を見ても現実に合わない」と手が止まってしまうことが多くあります。
この記事では、医療機器企業が 最初に押さえるべき手順書作成のポイント を、実務に即した形でわかりやすく整理します。
なぜ手順書整備が重要なのか(よくある誤解)
手順書は、単に規制対応のための“形だけの書類”ではありません。
実務では次のような場面で手順書が役に立ちます。
- 役割分担を明確にする
- 判断に迷ったときの基準になる
- 社内のチェック漏れを防ぐ
- 外部監査やPMDA対応がスムーズになる
手順書は「仕事を進めやすくするためのツール」であり、作り始めること自体が体制整備につながります。
手順書の種類と役割
医療機器企業が整備すべき代表的な手順書はこちらです。
■QMS(品質マネジメント)
設計管理、購買管理、文書管理、記録管理など、開発〜製造に関わる基本的ルールを定める文書。
■安全管理
市販後の安全管理情報の収集、評価、報告などの流れを整理する文書。
■臨床試験関連
治験を行う場合の、モニタリング、データ管理、手順の標準化などを規定する文書。
この3つが揃ってくると「体制として動ける」状態に近づきます。
まず取り組むべき“優先順位”
手順書は一度に全て作ろうとすると、間違いなく手が止まります。
最初は以下の優先順位で検討すると進みやすくなります。
- 文書管理・記録管理
- 設計管理
- 安全管理
- 臨床試験関連(治験が必要な場合)
この順番で進めると、後から追加する手順書の整合性が整いやすくなります。
手順書作成を始めるときの3ステップ
手順書の作成で最も重要なのは「完璧を求めず、まず形をつくる」ことです。
① 現状の棚卸し
まず、社内にある文書を全て書き出します。
- 既存の手順
- 暗黙のルール
- 担当者ごとの運用方法
- すでに作ってある文書(古い手順でも可)
ここを整理すると、必要な手順書の“ギャップ”が見えます。
② 既存文書の確認
次に、既存文書で使えるもの/修正すべきものを振り分けます。
- そのまま使える
- 修正すれば使える
- 目的に合わない・破棄すべき
- 内容はあるが文書化できていない
最初から完璧なものを作る必要はありません。
“現状に合わせて整えること”が大切です。
③ 実務フローとの整合性を取る
手順書は机上で作ると、必ず実務と合わなくなります。
大事なのは、「手順 → 実務 → 手順」の往復をしながら仕上げていくこと です。
- 担当者の作業手順
- 必要なチェックポイント
- リスクのある箇所
- 外部とのやりとり
こうした具体的な“現場”を文書に落とし込むことで、実務で使える手順書になります。
ベンチャーがつまずきやすいポイント
医療機器ベンチャーが手順書作成で陥りやすいのは、次のようなポイントです。
- テンプレートをそのまま使ってしまう
- 範囲を広げすぎて書ききれない
- 用語が複雑で社内に浸透しない
- 文書と実務の不一致
- 役割が曖昧なまま作成してしまう
これらは「作り始める前に方向性を決める」だけで大きく改善できます。
“理想論ではない”実務的な手順書の作り方
手順書は美しい文章にする必要はありません。
むしろ、次のような実務視点のほうが使いやすくなります。
- 短く分かりやすい文で書く
- 担当者が迷わないレベルの粒度にする
- 手順は番号で整理する
- 例外処理は簡潔に記載
- 図表を積極的に使う
重要なのは、「誰が見ても同じ作業ができる状態」にすることです。
外部支援を併用すると進みやすい理由
手順書は、企業の業務内容に密接に関わるため、
- 漏れのチェック
- 実務との整合性確認
- 第三者視点のアドバイス
があるとスムーズに整います。
特に小規模企業では、“担当者が一人で作り続ける”ことで作業が止まってしまうことが多いため、最初の方向性だけでも外部専門家に確認することをおすすめします。
まとめ:最初の一歩を踏み出すために
手順書作成は難しそうに見えますが、
- 現状の棚卸し
- 既存文書の確認
- 実務との整合性確認
という3ステップを踏めば、確実に前へ進めます。
完璧な手順書を作る必要はありません。
企業の今の状況に合わせて、少しずつ整えていくことで、“実務を支える体制”が自然と整っていきます。
